山本ひとみ先生【専門分野:ファッションビジネス】

今回は長年ファッション業界での実務経験を持ち、国際文化ビジネス・観光学科で「ファッションビジネス論」「ファッション心理」などの授業を担当されている、山本ひとみ先生に学生時代の様子やファッション業界でどのようなお仕事をされてきたのか、いろいろとお話を伺いました。

Q.先生がファッションビジネスに興味を持たれたキッカケは何だったのですか

実家が洋服と呉服の小売店で、幼い頃から店の手伝いをしていて洋服や和服が身近にありました。父が仕入れや買い付けに同行させてくれて、現場を見るうちに私もファッションビジネスを志すようになりました。ファッションといっても「デザイン」や「洋裁」を学ぶのではなく、「ファッションビジネス」を勉強しようと決めていました。父は私のやりたいことは、全面的に応援してくれましたのでとてもありがたかったです。学校に通いながらファッションビジネスに関わりを持ちたいと考えて、洋服屋での販売アルバイトだけでなく、業界紙のライター補助のアルバイトも掛け持ちでして、忙しい合間に友達と遊びに行ったり、とにかくスケジュールがパンパンになっていましたね。そんな中、当時学校に教えに来られていた恩師にめぐり逢い「ファッションビジネスをやりたい」と相談しました。

Q.ファッションビジネス業界のお仕事はいかがでしたか。

恩師の紹介でファッションの企画コンサルティング会社に入社しました。いくつかのブランドを立ち上げて、全国に出店展開をするために北海道から九州まで出張人生が始まりました。売り場づくりや品揃え、顧客名簿の管理、店長やスタッフを採用し指導する、今でいう「リテールマーチャンダイザー」の仕事をしていました。一つの店舗の形を作ったら次の店舗へ、という忙しい日々でしたね。そのうち百貨店の売り場のスタッフの教育やセミナー講師などのお声がかかるようになり、そういったトレーナーを複数名採用して私がリーダーとなってまとめる「スーパーバイザー」のような役割を果たすようになりました。それからしばらくしてコンサルの仕事に戻り、「きもの業界」の仕事に携わることになりました。「呉服屋の娘なんだからできるだろう」ということで抜擢されたのですが、当時もだんだんと着物を着る人が減り、着物業界が衰退していましたから、若い世代にも買ってもらえるような手法を考えました。新しいテイストでニュー着物ブランドを立ち上げて、有名な着物コレクターの方にデザインをお願いしました。店舗は若者向けのファッションビルに出店し、反物ではなく、仕立て上がりの着物を販売し、試着も可能にして、若い人たちにも手が届きやすい価格設定にしました。おかげさまでこの企画がヒットしまして、取締役東京支店長として東京を拠点に活動するようになりました。ちょうど私が26歳の時でした。

着物を着た山本先生

東京では大型量販店の洋服売り場のコーディネーターとしてさまざまなビジネスにかかわり、大規模小売店の衣料品バイヤーに次期シーズンの品揃えテーマを出し、提案をしていました。東京だけではなく、全国の百貨店のリニューアル企画をしたり、店舗の改装に携わったり、出張で飛び回っていました。それから教育部門に関しても百貨店の販売員を対象にセミナーを実施していました。そのころはDCブランドが全盛期で、「ハウスマヌカン」と呼ばれていたショップスタッフに単に接客や販売の方法を教えるだけでなく、本部との連携の仕組みや店舗運営などビジネス面での教育も手掛けていました。やがて31歳で大阪に戻って独立・起業をし、ファッションビジネスで培ったノウハウや人脈を生かして、海外の有名ブランドのお仕事もさせていただきました。力を入れていたのは広告に関する仕事でした。大手広告代理店と組んで商業施設やファッションブランドの年間の広告プランの企画立案と忙しい日々でした。時代は大型商業施設の開発ラッシュが始まり、「ファッションゾーン」売り場企画に関する依頼がどんどん入ってきました。「大型商業施設」や「小売り店舗」の世界は、アメリカが最先端なんです。だからしょっちゅうアメリカに出張して、最新の開発や取り組みを確認して、商業施設の現場を見に行っていました。他の仕事もあって年間の半分くらいニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ミラノ、パリ、ロンドンと海外出張に飛び回っていました。

コンサルティング会社のオフィスにて(右:山本先生)

出張先のニューヨーク・マンハッタンにて

マイアミでリフレッシュする山本先生

Q.うらやましいですね

もちろん多くの刺激を受けましたが、体力的にはハードでした。治安もよくなかったですし、経営者としてスタッフの安全にも気を使いながらの海外出張ですから大変でしたよ。海外出張から日本に戻ってくると思う存分ストレス発散するべく友人と遊んでいました。たくさん働きましたけど、たくさん遊びました(笑)。

Q.そこから大学院に進学されたのはなぜですか

恩師に「大学教員を目指してはどう?」というアドバイスを受けました。30代の半ばごろから、仕事が忙しすぎて勉強する時間がなく、新しい提案ができずにスランプに陥っていました。ファッション業界はどんどん変化していくのに、日々の業務に追われてクオリティの高い仕事ができない、といろいろと悩み出しました。実務家として学会活動もしていたのですが、過去の研究ではなくもう少し未来を見据えた次世代の業界研究をしたいと思いました。そこから実務家と大学の研究者の20人くらいがチームを組んで「次世代シリーズ」という本を出版しました。徐々に仕事をセーブしながら、大学院での研究活動に力を入れ始めました。やがてファッションビジネスの最前線を若い人たちに伝えるため、大学や専門学校で教えることになりました。

出版された5巻のシリーズ本

Q.先生の授業ではどのような特徴があるのですか

ほとんどの科目で課題のプレゼンテーションとディスカッションを導入しており、「プレゼンテーションができる学生」を育てたいと考えています。学生にテーマを与えて、各自でワークシートを作成させて、人前で発表させています。何回か練習をして上手くできるようになるものではありませんが、例えば「大きな声で発表する」や「最初に結論を言う」などといったポイントを繰り返し指導しています。プレゼンは社会に出ても役立つ重要なスキルですから、学生たちにはぜひ身につけてほしいと思っています。


Q.ファッションビジネス業界で働きたいという学生や高校生にアドバイスはありますか

「洋服が好き」「ファッションが好き」ということだけでなく、「ビジネス」「商売」として捉えて考えてほしいと思います。例えば「ユニクロ」では品質の良い製品が低価格で販売されていますよね。しかも世界中に販売店があって、いったいどんな製造方法なんだろう、どうしてこんな値段で売れるんだろう、どんな仕組みになっているんだろう、といったような疑問を持ってほしいです。あるいはファッションブランドのコマーシャルを見て、どの番組の間に流れているCMなのか、バックに流れている音楽は何なのか、そういった疑問からそのブランドのものづくりの背景やこだわりについて調べる、いろいろと考えてほしい、それがビジネスを理解するきっかけになります。学生には興味を持ったら「まずは動きましょう」とアドバイスをしています。じっとしていたら何も見えないですよね。わからなかったら目上の人や教員に相談して、とりあえず助言を聞いて動いてみることが大事です。私もファッション業界で仕事をしたいという学生には「ファッション業界でアルバイトをしなさい、販売でもなんでもいいから業界に入り込みなさい。」と伝えています。そこで嫌だと感じたり、合わないと思ったら次の道を探せばいいのですから。とにかく立ち止まらずにどんどん動いていきましょう。

Q.学生へのメッセージをお願いします

学生はわが子のように可愛い存在です。真面目に取り組む学生もいますし、中には勉強が苦手な学生もいます。どちらのタイプにせよ、学問を学ぶだけでなく、人間形成指導をしっかりとしていくことにより、素直に成長してくれると思います。何でも一度決めたら最後までやり遂げましょう。自分で決めた区切りが終えたあと、次のステップに行くことが成長することにつながります。

(記事内容は取材当時のものです。)

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