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- 教育・研究
あなたらしく居られる場探しの旅へ
「ワイ・グラントLLC」のCEO近藤幸裕さん
経済学部の鍋嶋正幹准教授が教える3年生の「ホスピタリティ人材マネジメント」の授業で、ホテル・ホスピタリティ業界の管理部門に特化したコンサルティング・アドバイザリー業務などを手がける合同会社「ワイ・グラント」(兵庫県西宮市)のCEO(最高経営責任者)近藤幸裕さん(61)をゲスト講師に招いた講義が12月10日に行われた。

近藤さんは東京全日空ホテル(現・ANA InntarContinental Tokyo)など4つのホテルと全日本空輸株式会社(ANA)のホテル事業部門など、ホスピタリティ業界の経営・管理部門に30年務めたキャリアをもとに、2014年10月にワイ・グラントを設立した。以来、外資系ホテル経営運営会社や日系ホテル・レストラン経営会社、ホテル内スパ運営会社などの財務、会計分野へのアドバイスのほか、人事戦略や人材開発分野の整備、社員の教育訓練体系の構築、企業理念・人事理念の制定支援などに携わっている。

講義では、学生にまず2つの質問が行われた。1つ目は「ホスピタリティ業界(ホテル、旅館、ブライダル、航空会社、飲食、テーマパークなど)で将来働いてみたいと思いますか?直感で一番近いものを一つ選んでください」。受講した学生ら60人が回答。1番多かったのは「強くそう思う(ぜひこの業界に行きたい)」で4割近くを占めた。2番目は「興味はあるが他の業界と迷っている」で約3割。「あまりイメージが持てない」「今のところ、考えていない」がともに1割台だった。2つ目は「あなたが就職先を選ぶときに『絶対に外せない』と思う条件を1~2語で教えてください」で、「給与」「休日」が最も多く、「人間関係」「成長できる」「やりがい」などが続いた。これらにより、学生たちの価値観をのぞいたうえで講義が進められた。
講義のテーマは「“Room to be yourself”~あなたらしく居られる場探しの旅へ~」。近藤さんはインター・コンチネンタル・ホテルグループ(IHG)で10年半働いた中で「あなたらしく居られる場」という言葉が胸に響き、「こういう場があったらいい」と常に求めていたという。IHGが従業員向けに掲げる理念・福利厚生プログラムの一つ、人材獲得・定着戦略の柱としての「心地よくいられる場」「成長の場」「変化をもたらす場」の3つの柱に着目。これから就職活動(就活)をむかえる学生には「その会社がどういう理念をもっているか、どういうことを大事にしているか、を確認することが大切。WEBなどでも分かるが、インターンシップなどにより、実際に現場で担当者の話を聞くのがベスト。それを確認して旅(就活)するべきだ」と説いた。
今後の観光・ホスピタリティ業界については労働力不足が深刻になるとした。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)のレポートによると、10年後に世界で最も深刻になるのは日本で現在の29%も減少するといわれている。低賃金、長時間労働、不規則なシフトといった厳しい労働環境が離職率の高さにつながり、コロナ禍での人材流出も影響している。今後は採用、教育・育成、配置・評価、働き方・制度、ウェルビーイング(健康でいきいき働けるか)、テクノロジー(AIなど)を一体で考える「人材マネジメント」が最重要テーマになると近藤さんは強調した。
そして、ホスピタリティ業界ならではの特徴として「お客様体験(CX)」と「従業員体験(EX)」がつながっていることを挙げた。EXは従業員がその会社で過ごす「体験の質」のことで、このEXが良ければ従業員が定着しやすくなり、お客様への態度にもにじみ出ることになる。「従業員満足度(ES)」が高ければ「お客様満足度(CS)」も高くなり、それが会社の収益へとつながっていく。
ホスピタリティ業界は「人」が競争力の源泉となる。テクノロジーが進んでも「誰と働くか」「どう働くか」によって自身のブランドをつくっていく。近藤さんは重要なポイントに「教育訓練費」を挙げ、「就活では1年間で一人当たりに教育訓練費をいくら使っているのか。教育訓練の仕組みはどういうものがあるのかを聞くこと。それがしっかりとつくられている会社とそうでない会社では、入社して5年後、10年後、20年後の皆さんの将来が変わってくる。入口(就活)のところでそれが分かるので、ぜひ、ためらわずにやってほしい」などとアドバイスした。そして、最後に学生のうちからできる準備として①(アルバイトなどで)多様な人とチームで働いた経験を広める②自分なりの「いい職場像」を言語化しておく(言葉で言えるように)③テクノロジーと人の役割分担について考えておく、を挙げた。

講義後に学生からの質問があり、「いい職場像を言語化するとありましたが、いい職場とは具体的に言うと?」に近藤さんは「仕事をまかせてくれること。他の従業員を知らない、会社の仕組みも知らないで入ってきても、少しずつ慣れてきたら仕事をまかせてくれる職場がいい。少しでも早く仕事を仕上げて上司に報告しようとすれば成長できる。逆にあれして、これしてと指示される職場ではその範囲でしか成長しなくなる」と説明した。「私もアルバイトをしていています。お客様への普段からのおもてなしをどう考えていますか?」には「私のお客様はクライアントですが、こうしたら心地よく思ってもらえるというのがおもてなしの心なので、こういうことをしてほしいと依頼されたら、それ以上のことをやろうと意識しています」と答えていた。
兵庫県内の接客業の店舗でアルバイトをしている同学部国際文化ビジネス・観光学科の松井唯華(ゆいな)さん(21)=三重県出身=は近藤さんの講義を満足そうに振り返った。「私は仕事を始めた時にCSを大事にすることだけで、あまり従業員のことは考えていませんでした。でも、仕事をしていくうちにESも大事だと思うようになりました。今の職場は自分たちがこうしたいという声をしっかり受け止めてくれるので、今日の授業に共感しました。接客業が好きなので旅行のプランナーなどの仕事に就きたい」と今後の就活に意欲をみせていた。


