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リバプール発 英文学者が見たイギリス

~学術情報センター便り~

学術情報センターでは、先生方の研究のこと、ゼミのこと、研究者になる前のご自身のことなど、様々なことをお聞きし、アカデミックな中にも、人間味あふれる話題を記事にまとめたいと思っております。さて、今回は経済学部、魚住香子教授にお話を伺いました。
魚住先生は日英の大学・大学院で英文学(エリザベス朝演劇)を専攻され、現在は文体論や英語教育(多読による学習効果)に関する研究をされています。イギリスのリバプール大学大学院での留学経験をお持ちです。

どんなお話が聞けるでしょうか              +++++ 経済学部 魚住 香子 教授(向かって右)

聞き手 学術情報センター 吉中 +++++

リバプール発 英文学者が見たイギリス

『イギリスで飲んだ紅茶が美味しい!と思って日本に帰ってきてから飲んだら、あれ?味が違う。水が違うんです。硬水で淹れるから美味しい紅茶だったんですね。学生がお土産でくれたアイルランドの紅茶は日本の水でも美味しかった。アイルランドも硬水が多いと思いますが、同じ硬水でも違うのかもしれません。』

私たちはお茶のペットボトルを前に置いて、お話が始まりました。

標準英語 vs. スカウス(リバプール・アクセント)

『イギリスに行く前に、奨学金を受けていたのでその団体の方たちの前で英語のスピーチをすることになっていました。そしたら、貴女はそのアメリカ英語でイギリスに行くつもりなの?って怒られてしまいました。ずっと米語の教育を受けてきたので当然アメリカン・アクセントでしたが、それでは嫌がられると。慌ててBBCを聞いたりして微修正をしました。これは大正解でした。「君の英語はあまりアメリカ英語ではない!」と喜ばれました(苦笑)』


そんなに変わるものなのですか?

『そうですね。大学の人たちは本当に聞きやすい標準英語を(RP)使います。とくに文学専門の先生方は語彙が豊富で、使う表現の選択がとても美しく、聞き惚れました。アメリカから来ていた留学生はイギリス人の同級生に、tomato(トマト)とか、vase(花瓶)の発音をイギリス英語風に直されていましたよ(笑)。イギリス人は特に、nativeではない人が米語を使うと劣等感を抱くことが多いと指導教官に言われました。もう25年も前の話ですけど。もともとリバプールはスカウスっていう一種の訛りがあって、そうですね、バスは「ブス、ブス」って感じに聞こえるんですよ(泣)。ビートルズのメンバーの英語もスカウス混じりですね。』

スカウスってリバプールの郷土料理にもありますね。煮込み料理です。

『へえ。。それは一度も食べたことはないですね。。。どんな味なのでしょうか。』

← スカウスとはマトンかラム・牛肉のようなお肉とジャガイモ・人参・玉ねぎ等を使ったシチュー。

↓ リバプールの町

スカウス訛りは「ブス、ブス」なのですね。イギリス英語はリズムがつっかかって聞こえると言われたりしますが、私は典型的なアメリカ英語を聞いているとやかましくて頭が痛くなる時があります。

ストレスアクセント?

『英語は、ストレスアクセント(音の強弱によるアクセント)の言語で、日本語や中国語のようなピッチアクセント(音の高低によるアクセント)とは異なります。ピッチアクセントは、例えば“雨”と“飴”など、音の高低によって意味の違いを出します。日本語はそういった言語です。馴染みの薄いストレスアクセントで強弱のついた言語をずっと聞いていると、少し自己主張が強いって感じる時があるかもしれませんね。そうそう、イギリスでこんな面白い経験をしました。歯の詰め物がとれてしまった時、リバプール大学は歯学部もあるので、学生が指導教官の指導を受けながら診察してくれたのです。でもまだ学生なので、非常に未熟で・・・、2時間くらい口を開けっぱなしの「まな板の上の鯉」状態でした。治療後は口が腫れてしまって・・・。そうすると、英語が話せない。でも、日本語は喋れるんです。ほとんど口を動かさなくても喋れるんですね。(笑)ストレスアクセントの英語は喋る時にとてもエネルギーの要る言語なのがよくわかりました。』

それ、わかります!目に見えるようです。(笑)

                                   イギリスでの食べ物いろいろ

日本語っていいですよね。私は英語を話せるようになりたいと思うのですが、普段の日本語(母語)でも語彙も構文も抑揚もきちんと話したいと思うので、それが外国語習得にはストッパーになっているように思うんです。

言語は繋がっている! 言語には人の感覚・価値観がでる。

『英語が得意ではない学生でも、たとえば母語でよく本を読む学生などには、英語の使い方にユニークさを感じることがあります。言語は繋がっています。言葉には使い手の言語感覚・価値観が現れますね。まずは相手にわかってほしい、伝えたいという気持ちが大切です。事実でも感情でも伝えたいことを表現する努力をする。言語を鍛え、試し、使えるようになる。これが大事です。好きな相手には何とか自分の気持ちを伝えたいと思うでしょう?だから学習中の言語を話す人に恋をすると語学は飛躍的に上達します。私は言語と文学の間に位置する“文体論“ (Stylistics)の研究をしていますが、どのように表現すればどう伝わるかといったことです。書く時も話すときも”What” はもちろん大事ですが、”How“が大きく左右します。言葉を選び、言葉を磨いていく。これはとても大切なことだと思っています。』

すごく理解できます。がなかなか思うようにいかないんです。

『まずはインプットをたくさんすること。コップに水を溜めるように、自分の中に楽しみながらたくさん言葉を溜めていきましょう。楽しくないと続かないですね。あるところまで溜まるとアウトプットできるようになってくるはずです。水が溢れるように。私は多読を勧めています。』

神戸国際大学附属図書館 Oxford Reading Tree 全シリーズが揃っています。日本のマンガの英訳本もあります。

魚住先生ご自身も多読で英語を習得されたのですか?

『いいえ、中高生の時にできればよかったと思います。代わりに中学校の3年間、英語の授業は all English でした。初めの1年間はまるでついていけなくて、三者面談では担任の先生から大丈夫??と心配されました。少しずつ慣れてきて、先生にも恵まれて英語が好きになっていき、ある時、窓が開くように理解できるようになりました。暗中模索ながらも浴びるようなインプットがあったからだと思います。最初にたくさんインプットするのが大切だと思います。』

なるほど、英語を磨くと日本語も磨かれる。まずはたくさんのインプットが大切ということですね。

日本語に飢える経験

『イギリスに留学していたとき、まわりは英語ばかりでした。当時、リバプールには日本人も少なく、日本語を話す機会もほとんどない。そんな時、日本へ一時帰国した友達が戻ってくる機内で読むために買った「女性自身」って雑誌をくれて。日本語に飢えていた私は貪るように隅々まで読みました。何度も読んで暗記するぐらいに。(笑) 日本語から離れたことによってかえって日本語への興味が膨らんで、帰国後には日本語教師の資格を取ったんです。(笑)溢れているとありがたくないけれど、なくなると恋しくて仕方がなくなりますね。日本語に飢えるという経験は自分の中でも大事だったと今、思います。日本語への愛着・・・というか、日本語を愛おしく感じ、もっと自分の国の言語を知りたいという気持ちになりました。私がイギリスに留学したのはもう25年も前の話になります。世界中のどこにいても、どんな言語でも繋がれる今の若い人たちは、感じ方が違うかもしれませんね。』

言語の主流が『便利』ではもったいない!

今の若い人たちは、コミュニケーションの仕方の変化が速く、ついていけないですそれと、日本の良さよりも今は日本の悪いところ、例えば価値観の均一性などを否定する若者が世界に目を向けるという感覚があるのかもしれません。

『私も速いコミュニケーションは苦手です。学生にからかわれても、ラインよりメール派です(笑)。スタンプはかわいくて便利で、愛用していますが、同じ短い言葉の繰り返しで会話を済ませてしまうのは、もったいないですよね。「タイパ」が重視される現代では、相手の時間も自分の時間も取らない瞬発力が重宝されるのかもしれません。便利さだけが言語コミュニケーションの主流となるのはもったいない気がしますが。』

言葉について話が盛り上がりました。

ペットボトルのお茶を飲んでちょっと一息。。。。

大切なことはフェアなこと&ユーモアがあること

『そうですね、イギリスに話を戻しますね。イギリスで大切にされていること、ひとつは、フェアであること。それから、ユーモア。たとえば学会発表のようなアカデミックな場面でもちょっとしたユーモアは歓迎されます。“sarcastic” は皮肉っぽいと訳されますが、批判精神と毒舌の間のぎりぎりのラインを攻める感じ。外すと単なる嫌味になりますね。このあたりは関西人のユーモア感覚とも合うかもしれません。笑いの世界も、例えばMr.ビーン。面白い!!日本人、とくに関西人は、エキセントリックなイギリスのユーモアとも相性がよいのではないかと思います。イギリス人は古いものも大切にします。家も家具も道具も古くても、古いからこそ価値があると考えます。日本人は新しいもの好きでしょうか。新築マンションのほうが古いマンションより価値があると判断されますね。』

お話が進むにつれて、どんどんと「ことばと文化」への想いが広がってきました。

イギリスは、いま、どんな景色なのでしょうか。魚住先生、長時間本当にありがとうございました

リバプールの写真は魚住先生に、それ以外の写真については職員の方のご協力をいただきました。