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2018年度学位記授与式 式辞

 本日ここに、皆さんをお迎えし、2018年度神戸国際大学学位記授与式を挙行できますことは、大きな喜びであります。皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんの4年間の学びへの取り組みが、学位記の授与につながったものであり、皆さんの努力に敬意を表します。そして、ご列席の保護者の皆様には教職員を代表して、心からのお祝いを申し上げます。また、保護者会会長、後援会会長、本学同窓会会長並びにご来賓の皆様にご臨席を賜り、心より感謝申し上げます。

 この教室は、通常「2号館大教室」などと呼ばれていますが、「大天使ミカエル」の名を冠した「ミカエル・ホール」として知られた教室であることを皆さんはご存知でしょうか。「ミカエル」とは「神に似たる者」と訳すことができるそうで、「正義や勇気の心を促す」ことを役目としている最も偉大な天使と言われています。また、この「ミカエル」は、創立者八代斌助師父のクリスチャン名でもあります。そのような場所で皆さんを祝福し、学位紀を授与することが本学にとって、いかに重要な意味を持つかをご理解頂けると思います。このキャンパスは、皆さんにとっての「学び舎」であると同時に、「青春の舞台」でもあります。充実した学生生活を送ってこられたことと思います。厳しく、かつ温かい先生方の薫陶を受けるとともに、学友との協働作業や励ましあいは、忘れえぬ青春のよき思い出となるはずです。

 昨年の卒業生に送った言葉のなかに、情報化がますます進む時代とともに、「異文化」を「自分化」とできるというお話を致しました。アニメや漫画が、世界で共有される大衆文化となっていることを例にあげました。そして、震災からの復興という「構築と創造」の時代を生み出した、「人間の力の偉大さ」について言葉を添えました。本年の卒業生の皆さんには、この「人間の偉大さ」について、グローバルな視点からもう少しお話しておきたいと思います。

 私は自分の専門分野からか、海外の事情に触れる機会が比較的に多いように思います。東日本大震災から今年で八年を迎えた訳ですが、我々のなかであの大惨事に世界中でどれ程多くの人々が支援の手を差し伸べてくれたか知っている人が、意外と少ないのに驚かされます。物資や救難活動でいち早く支援を開始したアメリカ、カナダ、ロシア、ノルウェー、フランス、イギリスなどの欧米各国に加えて、我が大学が提携大学をもつベトナム、タイ、韓国に加えて、アメリカに次ぐ義援金を送ってくれたのは、中華民国(台湾)の人々であった事実を私たちは知っているでしょうか。また、それが台湾大震災の時に、世界で最初に現地入りをした日本の救難援助隊への賞賛と感謝の念が込められていたことに気付いているでしょうか。 私が申し上げたいのは、私たちの世代は、「容易に国境というボーダーを越え」、「グローバル化した社会で生きている」ということであり、「新たな視野のなかで、創造という世界へ踏み出す力の源」を我々は既に目の当たりにしているということです。このことを我々は忘れてはならないのです。

 最近、ユヴァル・ノア・ハラリが著した『サビエンス全史』という本がベストセラーになりました。「文明の構造と人類の幸福」という副題のついた本ですが、このタイトルが想起する言葉がラテン語の「ホモ・サピエンス」です。「賢い人」あるいは「知恵のある人」という意味ですが、人間の特性が知性にあることを示しています。「考える力」こそが、人である証なのです。経済学部において、私たち教員が卒業生のみなさんに欲していることは、この「考える力」を身につけて欲しいということです。社会に出れば、思い通りになることばかりではありません。激しい競争に晒されることもあるでしょう。世の中が理不尽だと感じることもあるでしょう。しかし、そうした経験の上に、「人生」とは築かれていくものであることも、またそうした経験があればこそ、本当の幸福を見出せることも知っておくべきです。その幸福や満足感を得るために人は思考し行動するのであって、これらを求めることが、人に課せられた運命なのだと思うのです。

 この言葉に似たものに、哲学者石井誠士氏の著書にある「ホモ・クーランス」というのがあります。ドイツの哲学者ハイデガーがその著書『存在と時間』において、女神クーラ(気遣いの神、或いはケアの神)の神話を引用して、人間の存在を「気遣い(ラテン語で‘cura’)」という言葉であわらし、人は「気遣う人」だと位置づけました。つまり人とは「ケアする人」であるとしたのです。 医療に携わることになるリハビリテーション学部の卒業生は、実は人間の本質に裏付けられた職業についていることを知っておかれるべきです。この‘cura(気遣い)’にこそ人間は発展し、我々人類にその存在を理解しうる思考が根付いたのだと思います。 互いの痛みを感じ、相互に関わりあう社会で生きることが、真の幸福への道であるとキリスト教の精神で設立されたこの大学は教えています。また、「自分らしく生きる」ことの大切さ、そして、この大学を去る前に、いま一度あのチャペルの静寂の中で、「己の声を聞く」ことを通して、自分が何者であるかを思考し、真実を見極める道標としてください。

 さて、本日卒業される留学生の皆さん、遠く祖国を離れ、異なる言語、文化、習慣の壁を克服し、本学での学業を成し遂げられました。これまでの皆さんの努力に深く敬意を表したいと思います。これからは日本そして本学で身につけた知識や技術を社会の発展のために役立て、神戸国際大学を卒業したことを誇りとして、母国と日本との友好の架け橋となられることを期待しています。

 本日この機会に、皆さんを見守り育んで下さった多くの人々の温かい励ましを思い出して頂きたい。とりわけご家族・保護者の皆様には、この日を心待ちにして来られたことと存じます。皆さまの本学へのご支援に心から感謝するとともに、お慶びを申し上げます。    

 結びになりますが、本年度、神戸国際大学は、創立50周年を迎えて、色々な記念行事や大学祭、そして拡大版の同窓会である「ホームカミング」などが開催されました。同窓会支部も関東、九州、広島を中心とする西日本へと拡大しているとお聞きしております。留学生の同窓会もあります。皆さんも是非参加してください。同窓生とは「生涯の絆」で結ばれているものですが、国際大学の同窓生は、国籍を超えて存在しております。大学も勿論のこと、皆さんが訪ねてくだされば、教職員はいつでも歓迎します。

 重ねて本日の学位記の授与を祝し、希望に満ちて旅立たれる皆さんが、心身ともに健やかで実りある人生を歩まれ、社会の活力として活躍なさることを期待しております。そして、半世紀の歴史を経て、新たな一歩を歩み出そうとする本学で学んだことを誇りとし、希望に満ちた明るい未来社会を切り開いていく若き力として成長されますことを心から祈念しまして、式辞の結びとします。
 本日は誠におめでとうございます。

2019年3月20日
神戸国際大学長
下村 雄紀