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食から繋がる人づくり街づくり

ゲストスピーカーに街づくりプロデューサーの牧さん

はきはきとした語り口調で学生に接した牧さん

 経済学部の鍋嶋正幹准教授が教える「ホスピタリティ人材マネジメント」の授業で、街づくりの企画やデザインなどを手がける「有限会社リンクコーポレーション」(大阪市中央区)取締役会長の牧香代子さん(49)をゲストスピーカーに招いた講義が11月26日に行われた。

 牧さんは街づくりプロデューサー・インバウンド対策アドバイザーとして活躍し、「EXPO2025 大阪・関西万博」の開催を見込んで2020年1月に万博会場の一番近いエリアの大阪港に寿司店(大阪市港区)を開業した。しかし、直後からはじまった新型コロナウイルスの感染拡大による休業要請などで大打撃を受けた。その危機の中で地域の飲食店の協力を求めて各店舗がコラボした新メニューを開発。1年後にはマスクを外して飲食できる環境に戻ることを願って大阪市内を中心に飲食店経営者50人ほどのマスク姿を集めた21年7月から22年6月までのカレンダーを作製してコロナ禍に苦しむ経営者らを勇気づけた。コロナ禍が終息した23年にはノーマスクカレンダーをつくり、盛況を取り戻した繁華街に喜びを誘った。

 その後は大阪・関西万博の開催が迫っても一向に開催ムードが高まらないことに業を煮やすと、万博会場に近いエリアで働く人たちや住んでいる人たちで盛り上げようと、「OSAKA2025 ウラ万博 URAEXPO」を企画。港区、住之江区、大正区をうら万博エリアと名付け、このエリアを活性化することで万博開催の応援につながることを期待した。さらに万博開催にあやかって経営する寿司店がある港区から盛り上げていこうと同区内で活躍している女性51人の表情を1枚に収めたカレンダーを作製。たこ焼き店主や飲食店のママら幅広い年齢層の女性の笑顔を並べ、下町情緒あふれるコテコテの「大阪港区女子」に会いに来てとうたった。万博開催1カ月前には「ウラ万博バル」として59店舗が参加。店舗同士の結びつきを深め、万博開催日にはウラ万博開会式も挙行。万博人気が次第に高まってくると、ウラ万博バルも便乗して盛況さを増した。万博の閉会日にはウラ万博閉幕イベントも開催するなど、飲食店を通して人と人のつながりを大切にしたマネジメント能力で地域の活性化に成功した。

 授業では冒頭で、1年後約30%、2年後役50%、5年後役60%、10年後役90%の数字を表して、飲食店が10年後までに廃業する数字であることを示した。飲食店の廃業率が高い原因を①経営・資金繰りの問題②戦略・計画性の不足③人手不足・人件費の高騰④後継者不足を挙げた。厳しい飲食店の経営状況を垣間見た学生たち。「この中で飲食店をやってみたいと思っている人はいますか?」という牧さんの質問に手を挙げた人はいなかった。

牧さんは10年後には9割の飲食店が廃業すると語った

 それでも、牧さんは万博開催に便乗したウラ万博バルの成功例を説明し、「飲食店はAI時代になったとしても人と人とをつなげる素敵な職業だと思う」と飲食店の将来性を強調した。経営する寿司店を例に挙げ、職人は寿司のすばらしさを伝えようとする想いが大切で、「タイパ」(タイムパフォーマンスの略でかけた時間に対する効果や満足度を意味する)を求められるのではなく、シャリ(酢飯)やネタ(魚の種類や味)醤油や寿司の歴史など知識のある職人が求められる。手に職をつけるだけでは商売がうまくいくとは限らず、時ネタや魚の活きなどの臨機応変な対応と会話力が不可欠で、英語などの外国語の語学力があることも成功のカギを握るという。ウラ万博や大阪港区女子は地域の人々を巻き込んだ人材マネジメントの成功例で、牧さんは「お客様は味と空間の感動や体験をすることで記憶に残っていく。ウラ万博バルは人々の地域愛から生まれました。万博をきっかけに街と人、企業がひとつになってエリアの魅力を伝えることができたのが成功につながった」と食から繋がる人づくり街づくりを強調した。

北京外国語大で学び、
中国語が堪能な牧さん

 学生からは①お客様とのコミュニケーションで気を付けていること②すし店以外で経営しているもの③他の仕事と比べて飲食店のメリットとデメリット、などの質問が続いた。牧さんは①について「人を傷つけるような話は控えるようにして、楽しいことを話すようにしている。そして、私自身の話は裏表がないように心がけている」と打ち明けた。②は美容関係、不動産関連の会社を経営、そのほか駅前の駐輪場や英会話や手話などの教室も運営。③には「私はメリットの方が断然多いと思っている。飲食店の店主と大企業の社長は同じ立場なので来店されてもペコペコする必要はなく、友だちにもなれる。でも何千、何万人もいる会社の社員になったら一生その社長と会えない可能性もある。そういう社長と同じ目線で飲食店を経営した方が楽しい。経営することで苦しいことも多いけれど、いろいろな人に会えるというメリットの方が大きい」と説明した。