服部 淳一 先生
【専門分野:経営学(ホスピタリティビジネス)】

今回は大学卒業後に外資系ホテルにて勤務し、ホテル・ブライダル・セレモニーコースの担当をしている、服部先生に学生時代やホテリエ時代についてお話を伺いました。

Q、大学生活はどんな学生生活を送っていましたか

 

大学では、外国語学部で⾔語や⽂化について学びました。そもそも英語は苦手だったんですが、中学2年⽣の時の先⽣が、授業中にビートルズの音楽を使って文法やフレーズを教えてくれて、そこから英語が好きになり、そして、ビートルズやギターに熱中するなど⾳楽も好きになりました。
ゼミは、異文化コミュニケーションや異文化理解に興味があったので森捨信先生の『社会⾔語学』のゼミを選びました。⾔語やコミュニケーションを自然・社会・歴史・文化といった切り⼝から学ぶ⾮常にユニークなゼミでした。
卒業論文では、日本語と英語の別れの挨拶表現、例えば「さようなら = Good bye」と辞書には書かれているが本当にイコールなんだろうか、そんなことに疑問を持ち研究をしました。
例えば、日本人は別れの挨拶表現を「さようなら/またね/じゃあね」など使い分けていますし、英語でも「Good bye / See you / Take care」など同様です。そんな数ある別れの挨拶表現ですが我々は状況によって使い分けています。カップルが「さようなら」という表現を使う場面ってデート帰りというより「もう私たちの関係おしまいにしましょう」といった悲壮な語感がありますよね。
「さようなら」と「Good bye」は辞書では訳語とされるけど、それぞれどのようにその表現が誕⽣し、またどのような場⾯でその表現が発せられるのか、それまであまり考えたこともなかったですが言葉の奥深さを知る機会となりました。
このような学びが、国籍も宗教も文化も異なるスタッフが違いを尊重しつつ、お客様をお迎えするホテルという舞台で役立ったことは言うまでもありません。

 

学生時代のゼミ仲間と一緒に

その他の大学の思い出といえばアルバイトですね。⾼校・⼤学の7年間ずっと同じファーストフード店で働いていました。この時の経験がホテル業界への就職を考えるキッカケになったんです。

Q.そのキッカケとは何だったんでしょうか

そのファストフード店では、お⼦様向けのセットがあり、おもちゃが付いているのですが、その日いらっしゃったお⼦様が希望するおもちゃが店舗にはなかったんです。
違うおもちゃを⼀度は渡したものの、気になって他の店舗に電話するとそのおもちゃの在庫があったので⾃転⾞でもらいに⾏きました。戻ってきて、お⼦様にそのおもちゃを渡すとすごく喜んでもらえたんです。
⾃分としてはいいことをしたつもりでそのことを店⻑に報告したら、褒められず、逆に怒られてしまいました。
「やり過ぎだ、⼀⼈のお客様をそこまで特別扱いしなくてもいい」と。今となれば店長の冷静な指摘も理解できますが、その時は「⼀⼈のお客様を特別扱いするのがダメなんだったら、将来、自分は全てのお客様を特別扱いできる仕事に就きたい」と思ったんです。
それができる場所として選んだのがホテル業界で、この出来事が僕のキャリアを決める大きなキッカケになりました。
のちに「ハッ○ーセット事件」と自ら名付けた大きな出来事でした(笑) この出来事は「サービスとホスピタリティの違いってなんだろう」と自問自答するキッカケにもなりました。
今は講義で学⽣達にこのことについて考えてもらっていますが、学⽣時代に体験したことってこんな些細なことでもその後に繋がる大きなキッカケになるんですよね。

ファストフード店でのアルバイトは高校から大学まで7年間続けました。

 

アルバイトは楽しかったですよ。同じお店のアルバイト仲間とバンドを組んでいたので、他のスタッフが僕らのライブを観に行けるように店⻑が他店舗に応援要請してくれたり、その店長の異動の際はオリジナル曲を作ってプレゼントしたり、忘れられない思い出です。

高校3年間はギターに熱中し、バンド組んでたくさんライブもしました

Q.卒業後ホテル業界へ進んだわけですがギャップとかありましたか

⼤学を卒業してから16年間、東京、京都、⼤阪の外資系ラグジュアリーホテルで勤めてきました。ハウスキーピングからスタートし、ゲストサービス、レセプション、コンシェルジュ、そして財務・経理を経験してきました。最初の配属は、ハウスキーピング(客室の清掃や管理)でした。
配属当日からモップを持たされバスタブやトイレを掃除したり、ベッドメイクをしたり…同僚の中には、なんでこんなことしているんだろうと辞めてしまった人もいました。
ですが、そのあとゲストサービスに異動となり、お客様をお部屋までご案内した際に、ベッドが乱れているとすぐに直せたり、質問された時にこの部屋には何があるって答えられたり、ハウスキーピングを経験していたからこそわかることがあって、ホテルの重要な商品である客室についてしっかり理解でき自分に自信を持てたことがホテリエとして長くキャリアを続ける土台になったと今では感謝しています。
このように最初の業務は⾃分の希望するものではありませんでしたが、そこで仕事が嫌にならなかったのは、⼊社前からホテル業界でのキャリアについてイメージを持てていたからかもしれません。
私の場合、就職活動で知り合った仲間と様々な情報交換をしたり、実際にホテルで働く先輩に楽しいことも大変なことも話を聞くようにしていました。
今思えば、就職する前からホテル業界に多くの仲間がいたことになりますね。その頃知り合った人達とは今でも深い繋がりが続いています。僕にはもったいないくらいの素晴らしい仲間達です。

Q.ホテル時代で印象的な思い出はありますか。

京都のホテルでコンシェルジュをしている時に、海外から来られたお客様に「ここから清水寺までどのように行けばいいか」と聞かれたことがありました。⼀番スムーズにアクセスできる⽅法として「タクシーで10分ですよ」とお答えしました。
しかし後日、そのお客様からホテルに寄せられたコメントでは「私は、旅先ではできるだけその⼟地の⼈と同じ目線で⽣活がしたいと思っています。京都人の目線を知りたいと思いアクセスについてコンシェルジュに相談しましたが、いただいた提案が便利という理由だけでタクシーだけだったのは残念でした」とありました。
このお客様の仰る通りで、もっと対話を重ねていればタクシーだけでなく、例えば徒歩やバス、レンタサイクル、なんなら人力車を利⽤する、なんて⽅法もその人に合わせてご提案できたはずなのに、いつの間にか⼀辺倒な提案だけになってしまっていたなと大いに反省しました。お客様にはたくさんのことを教えていただきました。

ホテリエ時代の服部先生。

Q.ホテル業界から、研究者への道へ進むキッカケは何だったのでしょうか。

就職活動中に親しくなった⼈達を含め、ホテル業界には沢⼭の友⼈や知人ができました。しかし、数年経つと「転職しました」とか「辞めました」という声を⽿にするようになりました。
ホテル業界は転職がキャリア・アップにつながることも多いので、そのようなポジティブな理由ならとても喜ばしいことですが、結婚や出産・育児といったライフイベントに遭遇し、その後のキャリアや収⼊、⽣活リズムに不安を抱えこの業界を去る仲間を何⼈も⾒てきました。
彼ら/彼女のような⼈を減らし、この素晴らしい業界で長く活躍できる⼈を増やす為に何かできないかと考え、「ホテリエのキャリア・デザイン」ついて働きながら⼤学院(MBA)に通い研究することにしました。
ホテリエが転機を迎えた時(新⼊社員になった時、初めて部下を持った時、総⽀配⼈になった時)に、どのような問題に直⾯し、それをどのように乗り越えたのかについてインタビュー調査をすることで、ホテル業界で長く活躍する⼈たちが転機を乗り越えるために持っている特徴は何なのか、周囲からはどのようなサポートが必要なのか、⼤学や専⾨学校ではどのような教育が求められるのかについて研究を⾏いました。

大学院修了式にてグループ研究の仲間達と

ビートルズが好きすぎてMBAで英国を訪れた際にアビーロードで撮影しました

Q.今興味のある研究テーマは何ですか

学⽣が社会⼈になった時に感じるであろう『リアリティショック(理想と現実のギャップに衝撃を受けること)』を軽減させるために産学双⽅でどのような取り組みが必要か、またリアリティショックの寡多がその後のキャリア・デザインにどのような影響を与えるのか関⼼を持っています。
今後ますますの発展が予想される観光産業ですが、その中でもホテル業界は増加するインバウンド需要に応えるために開業ラッシュといった様相を呈しています。
このように「泊まりたい⼈」も「建てたい⼈」もたくさんいる業界において「働きたい⼈」をいかに育成するか、「働きたい⼈」そして「働いている⼈」にとって魅⼒的な業界であり続けるためにどのようにあるべきかを研究することで、これまで⾃分を育ててくれたホテル業界に恩返しができればと思っています。

Q.ゼミではどのようなことをされていますか

ゼミナールの学生達とキャンパスに隣接する海沿いの公園にて

服部ゼミでは『⾃分と仲間の成⻑を喜びあえるゼミ』をモットーとしています。この春にスタートしたばかりのゼミですが、学⽣たちの成⻑を⽇々感じています。
前期は、3名1組でのホスピタリティ・ビジネスの業界研究を課したのですが、メンバーも研究内容もくじ引きで決めるというスタイルを取りました。これまであまり触れ合う機会のなかった⽇本⼈学⽣と外国⼈留学⽣がひとつのチームを作り、⾔葉や⽂化の壁にぶつかりながら研究も進めることとなりました。
また、業界研究も学⽣の⼈気の⾼いホテル業界やブライダル業界だけでなく、葬儀業界、医療・福祉業界そして運輸業界といったこれまであまりホスピタリティという切り⼝で⾒てこなかったであろう業界を研究することとなりました。
素晴らしい発表ができたチームがあった⼀⽅で、うまくコミュニケーションが取れず問いを深掘りすることができていなかったチームや、特定のメンバーにタスクが偏りすぎて個⼈発表のようになっているチームなど、消化不良のまま発表当⽇を迎えたチームも⾒受けられました。実はこういった問題が発⽣することを想定していたんです。
ホスピタリティ・ビジネスでは顧客や同僚との『価値共創』が求められます。そこには主客や上下といった関係以上に、互いが知恵を出し合い協⼒し合うことで良いものを作り上げたいという想い、そしてそれを形にする実⾏⼒、調整⼒が求められます。発表の後に課した内省レポートでは、その点について触れ、後期の研究や来年の卒業論⽂に活かしたいという前向きな記述が多くの学⽣に⾒られ嬉しく思いました。

Q.先生が思う神戸国際大学の魅力聞かせてください

⼭と海を⾝近に感じることができる神⼾らしいキャンパスはとても美しく、設備も充実していて恵まれた環境だと思います。休み時間に波の⾳を聞き潮風を浴びながら学⽣や教員が語り合う、そんな⼤学他にないのではないでしょうか。学⽣、教員、そして職員の距離がとても近く、みんなで良いものを作り上げようという雰囲気が神⼾国際⼤学の魅⼒だと思います。

Q.最後に学生へのメッセージお願いします

先日「私にはできない」と決めつけてしまっている学⽣と話をする機会がありました。それはとてももったいないことだと思います。
学⽣時代の失敗は、恥ずかしいことではなく、挑戦という財産だと私は考えています。
私自身、⼤学⽣だった時にゼミの先⽣からいただいた”The best way to start is to start”というメッセージをこれまで宝物のように⼤切にしてきました。
とりあえずやってみる。悩んでるくらいならまず⼀歩踏み出す。きっと最初からうまくいくことはないでしょう。でもそれまでとは何かが変わっているはずです。視野も視座もそれまでより広く⾼くなっているはずです。
そして、そんなあなたを⾒て⼀緒に考えてくれる⼈、⼿を差し伸べてくれる⼈、伴⾛してくれる⼈がきっと現れます。
研究室に来て「私にはできない」と嘆いていたその学⽣も、勇気を出して⼀歩を踏み出し、今では⼤きなチャレンジを始めています。神⼾国際⼤学の学⽣には『⼀歩を踏み出せる学⽣』であって欲しいですね。

(記事内容は取材当時のものです。)

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